できることからはじめよう。転職会計士のはじめの一歩(vol.6)

事業計画を策定して予実分析を行いながら事業運営することは、IPO準備に限らず重要な業務だと感じています。
私は監査法人やベンチャー支援を行う中で「事業計画の策定支援」も行っていましたが、事業会社に入って行う事業計画はまた別の観点だということを感じました。
転職して事業会社に入り、「事業計画」に対する考え方の変化やどの様に策定したかを紹介させていただくことで少しでも参考になりましたら幸いです。

転職2年目以降の継続業務:事業計画の策定

転職前と後での「事業計画」への理解の変化

外部支援という形だった監査法人・ベンチャー支援時代は、事業計画を作るということは「ビジネスプレゼンを行う資料を作ること」というイメージを持っていました。
そのため、実際に以下の様な内容を事業計画と理解して支援していました。
①パワーポイントで作成
②ビジネスモデルについての説明
③内部分析(ビジネスモデルジェネレーション、STP、SWOT等のフレームワークを使う)
④マーケット分析(3C、PEST等のフレームワークを使う)
⑤財務数字の計画を5か年計画などで出す
これらは、ビジネスをこれから立ち上げようとしているベンチャー支援の中では重要で、資金調達等の場面では必須だと思っております。
また、自社においてもコストを発生させる前にしっかり分析を行い、客観的な意見やユーザーインタビューをする土台としては必ず必要になると思います。

しかし、私の認識していた事業計画とIPO準備に向かう会社の事業計画とは相違していました。
(↑の事業計画はIPO時でいうと「成長可能性に関する説明資料」だった)

IPO準備で求められる「事業計画」

私が転職先は売上高は60億程度あり、ヒトモノカネも一定にある状態でIPO準備に入りました。
そのため、ビジネスモデルは決まり、あとは商品をより多く販売し、成長してくと言うフェーズになっていました。
そのため必要になる事業計画はビジネスプレゼン資料ではなく、IPOで求められる事業計画でした。

そして、証券会社から求められた事業計画の要件は以下の通りでした。
①合理的な利益計画(PL、BS、資金繰り、投資計画、人員計画)を策定すること
②取締役会で承認すること
③連結ベースで作成すること
④月次で作成すること
⑤当期純利益まで作成すること
⑥月次で単月・累計で予実分析を行うこと
⑦予実差異についてはコメントを残すこと
⑧実績と残り期間の着地見立てを行い、業績予想の修正が必要ないかをモニタリングすること
(もう少しありますが割愛します)

転職する前までは、「パワーポイントで」「年度単位で」「PL指標のみ」の事業計画しか作成したことがなかった私は、
「いやいや、証券会社さん、要求が高すぎますよ。原理原則は上記の様な内容かも知れませんが実際には無理でしょ」という話をしていました。
しかし、今の私の感覚としては「普通にやらないといけない。というより、これじゃないと事業計画と予実分析ではない」と思っています。

初期の事業計画の作成方法と問題点

転職前の監査でやっていたのは、「四半期ごとの分析」「前年同期比較」という観点が主でした。
いわゆる「過去実績」についての分析であり、「将来を見立てる」ということをどの様に行えばいいのかが全く分からない状態でした。
わからないからできない、とは言えないので、当時の私が行ったのは
①過去3年くらいの実績の財務数字(PLを中心)を年度単位で集計する。
②増減分析を行い増減率を来期予算に適用する。
③来期どれくらい伸ばすかを経営陣に相談し、その成長率に合わせる。
④年間予算を÷12か月する。
⑤過去の季節変動があるなら手心を加えて季節性を入れる。
という感じで策定していました。

しかし、今振り返ると上記の作り方では問題点は大きく2つあります。
1.「財務数字」しか作っていない
2.経営陣に「成長の方向性」しか相談していない

1.財務数字しか作っていない

経営企画として毎週・毎月の予実分析を行っていると、財務数字は結果数字でしかないと感じています。
もっと重要なのは「KPI(Key Performance Indicator)」と「CVR(Conversion Rate)」だと感じています。
そして、過去のKPIとCVRを蓄積し、その他のKPIと掛け合わせると将来予測のKPIが見えてきます。
例えば、前職で言うと、①販売ができる在庫(KPI)×契約率(CVR)=契約件数(KPI)、②販売する人員数(KPI)と生産性(KPI)というような考え方です。
不動産業界なら当たり前のKPIですが、あとはこのKPIとCVRをどれくらい細かく因数分解を行い、ビジネスフローの実態を反映することが重要となります。
そして、その蓄積と細分化が進めば進むほどに将来のKPI予測の精度が上がり、その結果指標として財務数字が導き出される、という流れになります。
この様に「KPI」(非財務情報)をベースに事業計画は作成しなければいけないと考えています。

※KPIのマネジメントについては「最高の結果を出すKPIマネジメント」をご覧ください。

2.経営陣に「成長の方向性」しか相談していない

誤解なきように申し上げるのは「現場の意見を聞く」ということを申し上げたい訳ではありません。
問題だと振り返るのは、経営企画として「これくらいの数字になるだろう」という見立てもなく経営陣に相談するというプロセスが問題だと思っています。
経営陣は「●%成長したい」という方向性は持っているのでその意向は聞くべきです。
しかし、「何を根拠にしているか」が定かでなければ「気合と根性」の話になってしまいます。
(決して、気合と根性を否定しているわけではありません。むしろ事業計画が走り始めて、その計画の財務数字が達成するかしないかは最後は気合と根性だと思っています)

上記の1にも通じるのですが、KPIを根拠にしながら
・経営企画としては10%成長が妥当数字です。
・方針として示された20%にするためには●●のKPIを増やすか、▲▲のCVRを高めることなのですが、どちらが現実的でしょうか?
というコミュニケーションができていないことが問題だったと感じています。
この様に、経営企画としての根拠を基にしたコミュニケーションができていないと、事業計画が達成できなかったときに
「経営陣が20%と言ったからその計画にしました。予実がズレたのは経営陣の見立ての悪さです」
としか話すことが出来なくなってしまいます。
(IPO後にIRが上記の様なことを言ってしまったら、投資家はその会社の経営陣もIR担当者も信用できなくなることでしょう)

まとめ

個人的には事業計画の精度を高めることが出来るのは「会社の中の人」しかいないと感じています。
事業計画作成支援等も外部として行っているものの、
・普段どのような業務を行っていて
・何が成果につながるアクションで
・普段はどの様な指標を追っているか
というのは外部からではわからないものだと感じています。
外部の支援はもちろん利用することはいいことですが、あくまでも最後は会社で管理するというのが大切だと感じています。

そして、IPO直後に下方修正するというのは、株式市場からの信用を大きく落としてしまいます。
その信用を取り戻すのは非常に時間が掛かるので、経営を科学しながら合理的な予算計画を策定しましょう。
この投稿がその一助になっていましたら幸いです。

以上、第6回は事業計画を作成する方法の詳細についてご紹介させていただきました。
最後までご覧いただきありがとうございました。
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